オンライン講座で、画面の向こうに初対面の講師が突然現れる。
その瞬間、受講する側には、
「この人はどんな人だろう?」
「今日はどんな話をするんだろう?」
という小さな緊張が生まれることがあります。
実はこれは、話す側にとっても重要な瞬間です。
講演や研修では、内容を入念に準備することはもちろん大切です。
けれど私が登壇を設計するとき、特に時間をかけて考えるのが、
「最初の数秒で、どんな場をつくるか?」
ということです。
言葉を届ける前に、すでに場は始まっているからです。
4回目の講座に、初対面のゲスト講師として入る
先日、英語プレゼンテーション&ディスカッション講座に、ゲスト講師として登壇しました。
その講座はすでに4回目。
受講生の皆さんはお互いに顔なじみになっていました。
そこへ、私という「初めて見る人」が、Zoom画面に突然現れる。
もちろん、事前にこれまでの授業動画を拝見して準備しました。
それでも、実際に画面の前にいる皆さんがどんな方なのかは、その瞬間まで分かりません。
ここで私がいきなり、
「こんにちは。今日は非言語コミュニケーションについてお話しします」
と講義を始めたら、受講生の皆さんは「聞く側」に入ることはできても、「参加する側」にはまだ切り替わっていないかもしれない。
そんなことを考えました。
だから私は、話し始める前に、ひとつ仕掛けを入れることにしました。
最初の5秒に、「話す」以外のことをする
私が選んだのは、
High Five(ハイタッチ)
です。
しかも、一度ではありません。
最初は、画面に映っている自分自身へのハイタッチ。
次に、画面の向こうにいる仲間へのハイタッチ。
参加者の皆さんと一緒に、講義が始まる前にこれを行いました。
一見すると、とても小さなアクションです。
けれど、私はここに大きな意味があると考えています。
講師が一方的に「話し始める」のではなく、参加者全員が身体を動かして、同じ場に入る。
それだけで、講師と受講生の関係が、
「話す人」と「聞く人」
から、
「一緒にこの時間をつくる人」
へと変わります。
私がTEDトークを研究するとき、いつも考えていること
私は普段、TEDxのような大きな舞台に立つスピーカーの指導をしています。
そのため、TEDトークを研究したり、登壇の構成を考えたりすることが日常になっています。
そこで私がいつも意識しているのが、Simon Sinek(サイモン・シネック)さんの「Start With Why」という考え方です。
TEDでは、Sinek氏の「How great leaders inspire action」が、Whyから始めるGolden Circleの考え方として紹介されています。
もちろん、今回の講座で私が行ったことは、Sinek氏のメソッドそのものではありません。
私自身の登壇設計に置き換えるなら、
「何を話すか(What)」の前に、「なぜ、この時間を一緒につくるのか(Why)」を考える。
ということです。
今回、私にとってのWhyは明確でした。
「初対面の受講生の皆さんが、安心して講義を受け、気軽に声を出せる場をつくること。」
そのために、私は「最初の5秒」を設計しました。
元になったのは、メル・ロビンスの「High 5 Habit」
このアイデアには、もう一つのきっかけがあります。
世界的なベストセラー『The High 5 Habit』で知られるTEDスピーカー、Mel Robbins(メル・ロビンス)さんの「High 5 Habit」です。
彼女は、朝、鏡に映る自分にハイタッチをする習慣を紹介しています。
本人の公式サイトでも、鏡に映った自分を見ること、そして自分自身にハイタッチすることを、この習慣の中心的な実践として説明しています。
私はこれを知ったとき、
「もし鏡ではなく、Zoomの画面だったら?」
と考えました。
Zoomでは、自分の顔が画面に映っています。
つまり、オンラインという環境そのものを使って、「自分を見る」「自分とつながる」ための入口をつくることができる。
そこから、私はこの習慣をオンライン講座の導入に応用してみました。
なぜ、身体から始めるのか?
人前に立つとき、私たちはどうしても「何を言おう」と考えます。
講師なら、
「最初の挨拶は何にしよう」
「説明をどう始めよう」
「ちゃんと伝わるだろうか」
と、頭の中で準備します。
もちろん、それは必要です。
でも、言葉を準備している間にも、身体はその場に反応しています。
表情。
呼吸。
視線。
姿勢。
声の出し方。
そして、本人が意識していない小さな緊張。
こうしたものも、相手には伝わります。
だから私は、Body Speech(ボディスピーチ)では、
「何を話すか」の前に、「どんな状態でそこにいるか」を見ること
を大切にしています。
これは、単なるボディランゲージの話ではありません。
身体・言葉・意図が一致しているか。
その人自身が、その場にどう存在しているか。
そこから、信頼や存在感が生まれていきます。
「安心してください」と言うより、身体で場をつくる
企業研修や講演でも、最初に「今日はリラックスして聞いてください」と伝えることがあります。
けれど、
「リラックスしてください」と言葉で伝えることと、実際に身体がほぐれることは同じではありません。
だからこそ、場をつくる側には、
言葉だけに頼らず、身体を使って状態を変える設計
が必要だと私は考えています。
今回のハイタッチも、その一例です。
参加者にとっては、ほんの数秒の動作。
けれど、その数秒によって、
「今日は講義を聞きに来た」
という状態から、
「ここに参加している」
という状態へ、一歩踏み出すことができます。
実際にやってみると、場が変わった
実際にハイタッチをしてから講義を始めると、Zoomの画面越しでも、空気が一気にやわらぎました。
笑顔が生まれ、声も出やすくなりました。
そして、講義が始まってからは、受講生の皆さんから積極的に質問が出てきました。
もちろん、これだけで場の変化のすべてを説明できるわけではありません。
ただ、私自身が強く感じたのは、
「最初に何を話すか」だけでなく、「最初に何を一緒にするか」が場を変える
ということでした。
これは、オンラインでもリアルでも変わらないのではないでしょうか。
終わりにも、もう一度ハイタッチ
そして、講義の最後にも、もう一度ハイタッチをしました。
一度目は、
これから始まる自分へのハイタッチ。
二度目は、
一緒に学んだ仲間へのハイタッチ。
始まる前と、終わった後。
どちらにも身体を使った小さな区切りをつくる。
それによって、単に「講義が終わった」というだけではなく、
「今日、この時間を一緒につくった」
という感覚を残すことができます。
「最初の5秒」を設計するということ
私は、プレゼンテーションを「話す技術」だけだとは考えていません。
講演でも、研修でも、会議でも、ファシリテーションでも、
人が話し始める前から、コミュニケーションは始まっています。
だからこそ、
- どんな表情で登場するのか
- どんな姿勢でいるのか
- どこを見るのか
- どんな声で最初の一言を発するのか
- 参加者にどんな身体的体験をしてもらうのか
- その場をどんな状態にしたいのか
まで含めて設計する。
私はこれを、「存在感の設計」と考えています。
Body Speechは、「話し方」の一歩前から始まる
Body Speech(ボディスピーチ)は、
身体・言葉・意図を一致させることで、信頼と存在感を生み出す技術
です。
だから、「上手に話す」ことだけを目指しません。
話す前の状態。
相手との関係。
場の空気。
身体の使い方。
声。
視線。
そして、自分が何を意図して、その場に立っているのか。
それらを一つにつなげていきます。
今回のハイタッチは、そのほんの小さな一例です。
身体を変える。
状態が変わる。
場が変わる。
そして、伝わり方が変わる。
これが、私の長年の舞台経験と、スピーカー・リーダーへの指導を通して体系化してきたBody Speechの考え方です。
企業研修・講演・メディア取材について
プレゼンテーション、リーダーシップ、非言語コミュニケーション、オンラインでの伝え方、存在感の設計などについて、企業研修・講演・教育機関での講義・メディア取材をお受けしています。
「話す内容は準備しているのに、なぜか伝わり方が変わらない」
「オンライン会議で、場がなかなか温まらない」
「リーダーが人前に立ったときの存在感を高めたい」
「プレゼンテーションを、話し方だけではなく身体から見直したい」
そんな課題をお持ちの企業・教育機関・メディアの方は、お気軽にお問い合わせください。
Body Speechを体系的に学びたい方へ
Body Speechの考え方を、より実践的に学べる英語講座もUdemyで公開しています。
Body Speech: Why Your Words Don’t Land — And How to Fix It
「何を言うか」だけではなく、
どんな状態で、その言葉を届けるのか。
存在感、信頼、非言語コミュニケーション、プレッシャーの中での身体の使い方など、「話す前の状態」からコミュニケーションを見直したい方に向けた講座です。


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